2025.10.19 第4章~4話:ホームレスの日常。

ここまでをご覧になってくださった方はきっと思われる事でしょう『ホームレスだとか言いながら芸能人に会えて楽しそうじゃないか!』と。

1年半近くホームレスをやっていましたが、記憶に残っているエピソードがこの2つしか無いのです・・・
そしてこの頃の記憶があまり無いので、覚えている事も主にこの2つ。

あとは生地をひたすら改良し、色んな方面に支払いが遅れてしまったのでお詫びを続け、一人で生地を作り、そして売りに行きました。

営業に出てはその日の売上を握り締めては工場に戻り、少しづつ滞納していた未払い分の支払いを進めていき、

もっと売上を上げるには!?
もっと短時間に生地をたくさん作るには!?

時間だけはあったので、もっと生地を美味しくして今以上にもっと売上を稼げるようになる為に!
食べたら全員が全員〜美味しい!と驚愕するくらいに象の耳をもっと美味しくしよう!

この時期から米粉で象の耳を作ったらどうなるのか!?の研究も始めてました。
手に入れやすい白玉粉や求肥粉、上新粉の違いから、混ぜるとどうなるか?
それだけで象の耳を作るとどうなるのか?
以前ならば製造優先で出来なかった手間のかかる深い研究までとことんやりました。

ネットで色々と調べては試作を繰り返しては改良版が完成!
自信をもって売りに行き常連さんの感想を聞いては、また研究と試作を繰り返し今度こそ究極の象の耳の完成だ!と売りに行きお客様に販売しながら自分も食べてみて、時間を置いてまた食べて、改善点を探し見つけたら改良!

『どうやったらもっと美味しくなるか悩んでるんですよ〜』とお客様に話しかけては、ご意見を頂戴し(全員がご意見を下さる訳ではなかったですが)

ご意見がもらえたら、
「来週までに修正してくるので、良かったらまた食べに来てくださいね!」

そうお伝えし戻ったら改良を繰り返し、翌週にいらしてくださったら修正版を食べてもらい・・・

こうやって常連さんを作ったといいますか、営業に出た時以外に人と会話が出来なかったので話相手が欲しかったというか・・・また来て欲しかったのもあり、ご新規さんもどんどん巻き込んで毎日毎日生地の改良を繰り返しては改良版を毎週持っていき感想を聞く・・・みたいな事を延々とやっていたのだけは覚えています・・・
(だから象の耳の改良回数が異常な数字なのは、この時期に狂ったように改良を繰り返しすぎた結果なのです)

こうして象の耳が更に美味しくなったせいなのか、時が過ぎて自粛をする人が減ったからなのかはわかりませんが、売上は少しづつ上がっていきまして!

少しづつ少しづつ未払い分が減り、やっと1/4サイズのキャベツが買えるようになり一番小さい携帯用のソースやマヨネーズも買えて、それなりのお好み焼きが食べられた時はガッツポーズしました。
なんか普通の人に近づいているぞ!
やっと米が買えて(1年くらいかかりましたが)鍋で炊いた時は涙が出そうになりました。

それでもいつこんな生活が終わるのか、この生活からいつ脱出できるのかさっぱり見えていませんでした。
ずっとこのままかもしれない。
折れてしまいそうな心を必死に繋ぎ止める日々でもありました。



そしてある夜。
どうしても読みたい漫画の発売日。
買う事が出来なかったので深夜のコンビニへ行きひっそりと立ち読み。

そのONE PIECEというマンガ(2009年発売の)55巻でボンちゃんがこんな台詞を言いました。

『私には諦めない事しか出来ない!』

これを立ち読みした時、この言葉が胸に染みすぎて涙が出てしまいした。
そう、今の自分にも出来る事があったのです!
それが『諦めない事』。
何もない自分にも出来る事があったのです!

諦めなければいいんだ!

そして作品の中でイワちゃんがこんな台詞を叫びました。

『奇跡は諦めない奴の頭上にしか降りて来ない!奇跡をなめるな!』と。

そうだ、諦めたら終わりだけど諦めなければいつかはチャンスが巡ってくるかもしれない!
安西先生も『諦めたらGAME OVERですよ』って言ってたもんな。

そうか、諦めなきゃいいだけの事じゃないか。
なんか答えが見えたような気がしました。

こうして自分はワンピースの55巻に救われたのです。


ですが『諦めない』って言うのは簡単ですが、
実際、なぜ諦めずに続けられたのか?


なぜ心が折れなかったのか?

それは何処に売りに行っても、『その場で象の耳を食べてくださった方々が』象の耳を美味しい!と言ってくださっているから。
何年も売っていれば、その方が本心で言っているのかくらいはさすがにわかります。

象の耳を売ってさえいれば、自分はまた這い上がる事が出来る、そう確信に近い自信が持てていたからです。

だから諦める理由が無かったのです。

お客様の『美味しい!』という言葉が、それだけがこの時の自分を支えてくれていた長くて暗いトンネルの中の生活の、はるか奥に見えていた唯一の微かな『光』でした。

そして・・・1年と数ヶ月の時が過ぎた頃。

とある営業場所で見かけたポスターが人生を変えてくれたのでした。

<つづく>

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